行列の”大小” 半正定値順序【線形代数】

行列に大小関係を定める1つの方法として,半正定値順序というのがあります.

まず半正定値行列の定義を確認し,その後で順序を定義してみようと思います.

半正定値行列

エルミート行列\(M\)が任意のベクトル\(v\)に対して\[\langle Mv, v \rangle \geq 0\]をみたすとき,\(M\)は半正定値であるという

エルミート行列であることは前提とした上で,半正定値という性質がのっかってきます.

半正定値での順序を見る前に1つだけ重要な性質を確認させてください.

半正定値行列は次のような性質があります.

  • 半正定値行列の固有値は非負
  • 逆にすべての固有値が非負であるエルミート行列は半正定値

つまり半正定値行列 ⇔ すべての固有値が非負なエルミート行列

確認してみます.

半正定値行列の固有値は非負

\(H\)が半正定値であるとしましょう.

半正定値の定義は任意のベクトルで成立する内容ですから,\(H\)の固有ベクトルをとってみましょう.\(H u = \lambda u\)をみたすとします.

\[0 \leq \langle Hu, u\rangle = \lambda \langle u, u \rangle\]

となります.固有ベクトルは\(u \neq 0\)ですから内積の定義より\(\langle u, u \rangle > 0\)ですね.よって\(\lambda \geq 0\)です.

すべての固有値が非負であるエルミート行列は半正定値

\(H\)はエルミート行列であるとしましょう.

エルミート行列は正規行列ですからスペクトル分解ができます.

よって\(H\)の固有値を重複込みで\(\lambda_i (i = 1,\cdots, n)\),対応する正規直交化された固有ベクトルを\(u_i (i = 1,\cdots, n)\)とすると\[H = \sum_{i = 1}^n \lambda_i u_i u_i^*\]とかけます.

さてでは任意のベクトル\(v\)を持ってくると,固有値\(\lambda_i\)が非負であることから,

\begin{align*}
\langle M v, v \rangle &= \sum_{i = 1}^n \langle \lambda_i u_i u_i^* v, v \rangle \\
&= \sum_{i = 1}^n \lambda_i \langle u_i \langle v, u_i \rangle, v \rangle \\
&= \sum_{i = 1}^n \lambda_i \overline{\langle u_i, v \rangle} \langle u_i , v \rangle \\
&= \sum_{i = 1}^n \lambda_i |\langle u_i, v \rangle|^2 \\
&\geq 0
\end{align*}

となって固有値は非負であることがわかります.

では半正定値行列を用いて行列の順序が定められることを見ていきます.

行列の半正定値順序

\(n \times n\)行列\(A, B\)について,\(B-A\)が半正定値行列となるとき\[A \leq B\]と書き,これは順序になっている.

ではこの\(\leq\)が順序になっていることを確認してみます.

順序の公理は次の通りでした.

  • 【反射律】 \(A \leq A\)
  • 【反対称律】\(A \leq B\) かつ \(B \leq A \Rightarrow A = B\)
  • 【推移律】 \(A \leq B\) かつ \(B \leq C \Rightarrow A \leq C\)

ということで1つずつ見ていきます.

反射律

\(A \leq A\)についてです.\(A-A=0\)であり\(\langle 0v, v\rangle = 0\)を常にみたすのでOKです.

反対称律

次に\(A \leq B\) かつ \(B \leq A \Rightarrow A = B\)はどうでしょうか.定義からでも導けますが試しに固有値が非負であることを使ってみます.

\(B \leq A\)つまり\(A-B\)が半正定値なので\[(A-B)u = \lambda u\]をみたす固有値\(\lambda\geq 0\)と固有ベクトル\(u\)がとれますね.この式の辺々に単純に\(-1\)倍すると\[(B-A) u = -\lambda u\]となります.\(A \leq B\)つまり\(B-A\)も半正定値なので固有値\(-\lambda\)も非負\(-\lambda \geq 0\)ですね.よってどんな固有値も\(\lambda = 0\)となっています.ここで\(A-B\)がエルミートであることを思い出しますと,スペクトル分解ができるので,しかも固有値は\(0\)しかないので,\(A-B =0\)です.よって\(A = B\)ですね.

推移律

最後に\(A \leq B\) かつ \(B \leq C \Rightarrow A \leq C\)はどうでしょうか.こちらは半正定値行列の定義に戻りましょう.任意のベクトル\(v\)をとると\[\langle (B-A)v,v \rangle \geq 0\]と\[\langle (C-B)v,v \rangle \geq 0\]が成り立っています.そこで

\begin{align*}
\langle (C-A)v,v \rangle &= \langle (C-B+B-A)v,v \rangle \\
&=\langle (C-B)v,v \rangle + \langle (B-A)v,v \rangle \\
&\geq 0
\end{align*}

となって\(A \leq C\)が導けました.

ということで半正定値行列を用いて行列の順序を定めることができました.

ぶつぶつり
ぶつぶつり

最後までお読みくださいましてありがとうございました

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